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不妊治療医が精子を取り違えるとどのような罪になるか

不妊治療医が精子を取り違えるとどのような罪になるか

先日、オランダの不妊治療医が患者に無断で自分の精子を患者の卵子に体外受精させて「自分の子ども」を産ませていた事実が発覚しました。

このような場合、不妊治療医にはどのような罪が成立するのでしょうか?

今回は、不妊治療医が故意や過失で精子を取り違えて体外受精させた場合の責任について考えてみましょう。

オランダの不妊治療医による驚くべき行為とは

BBCによると、先日オランダの不妊治療医が患者に無断で自身の精子を体外受精させ続けていた事実が発覚したとのことです。本来であれば予定されたドナーの精子を用いるべきところ、書類等を改ざんして勝手に自分の精子を注入していたようです。そうして生まれた「医師の子ども」は49人にも及ぶとされています。

発覚のきっかけは、顔や外見が医師に似ている事に不信感を抱き、患者がDNA鑑定を求めたことでした。

カルテ等も改ざんされていた疑いが強いのですがクリニックも2009年に閉鎖されており、医師本人も2017年に死亡していることから、どこまで事実関係を解明できるかは未知数の状況です。

日本での取り違えの事例

今まで日本において、今回のオランダの医師のように「依頼と異なる精子を使って不妊治療をした事例」はあるのでしょうか?

今回発覚したケースのように「故意に自分の精子を入れた」とするセンセーショナルな例はありません。

ただし過失による取り違え事故は起こっています。

2009年2月、香川県立中央病院における不妊治療において担当医の過失により予定されていたものと異なる体外受精が行われ、女性が妊娠してしまった事件が報道されました。

その結果、女性は中絶を余儀なくされています。医師は「忙しすぎたためにミスをした」と弁明していました。

精子の取り違えで成立する罪や責任

もしも日本において「ドナーや夫とは異なる男性の精子が注入されて体外受精が行われた場合」医師にはどのような罪が成立するのでしょうか?

今の日本で、こういった不正な不妊治療に対する直接の規制法はありません。医師だけではなく胚培養士などの専門職に対しても法規制が行われていない現状です。

今回のオランダの担当医のように故意に自分の精子を注入した受精卵を女性の体内に戻した場合、刑法上の傷害罪が成立する余地があると考えられます。

一般の医療行為が傷害罪にならないのはそれが「正当行為」だからです。「治療目的」という正当理由が認められるので、違法性が阻却されています。ところが自分の精子を入れた受精卵を体内に入れるのは正当行為にはならないので、傷害罪が成立するのです。

過失の取り違えによって受精卵を注入した場合「業務上過失致傷罪」となる可能性があります。

またそれにともなってカルテを改ざんした場合には「文書偽造の罪」が成立します。

国公立の病院なら公文書偽造罪、私立病院なら私文書偽造罪です。虚偽の診断書やその他の提出書類を作成した場合も同様です。それらの文書を何らかの目的で行使したら、偽造(変造)文書を行使した罪も成立します。

さらにカルテを作成しなかったりその後5年間保存しなかったりすると、医師法違反の罪も成立します。

刑事的には上記のような取扱いとなりますが、患者から民事で損害賠償請求をされるでしょうし、医師免許も剥奪されるなどのペナルティを受ける可能性は高くなります。

まとめ

近年、不妊治療に関心を寄せる方は増加していますし、不妊治療方法もどんどん高度化しています。それに伴って不妊治療医に求められる注意義務も高まっていると言えるでしょう。 医師本人の良識に任せているだけでは、今回のオランダのような事件が起きる危険性もあります。不妊治療について早急に法規制を行い、適切な対応が行われるように対応すべき状況といえるでしょう。

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