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司法試験受験者数が5,000人以下になった意味

司法試験受験者数が5,000人以下になった意味

 平成30年度の司法試験の受験者数が5,000人を下回る4,805人となり、法科大学院制度の開始後、旧司法試験と併存していた時期を除いて、過去最少の受験者数になりました。

 法科大学院の人気が低迷する中、受験者数の減少がどのような意味を持つのでしょうか? 司法試験の受験指導を行う筆者が、受験生の動向を踏まえて解説していきます。

受験者数が持つ意味

 司法試験の受験者数は2003年には4万5千人を超えていましたが、法科大学院制度が始まって以降減少し、旧司法試験が廃止されてからは1万人以下になりました。

法科大学院制度が始まる前は、誰でも司法試験を受験することができ、大学で一定の単位を修得していれば司法試験の一次試験が免除され、現在の司法試験に当たる第二次試験から受験することができました。

 この旧制度の時代には多くの人に開かれた試験として司法試験が存在し、学歴や経歴に関係なく様々な人が司法試験を受験していました。

 しかし、司法制度改革で法科大学院制度が始まり旧司法試験が廃止されてからは、原則として法科大学院を修了しなければ司法試験の受験資格を得られないことになったため、多くの人に開かれた試験ではなくなりました。法科大学院を修了しなくても司法試験予備試験に合格すれば司法試験の受験資格を得ることができますが、この予備試験の合格率は約4%と非常に低く、法科大学院へ進学しないで司法試験の受験資格を得ることは非常に難しい現状があります。

そのため、若い世代の司法試験離れが顕著になり、司法試験と予備試験の受験者を合計しても2万人に届かない状態になり、旧司法試験の時代からすると司法試験に向けた勉強をする人自体が半数以下に減少しています。

このことから司法試験合格者の質の低下を心配する声も上がっています。

旧司法試験時代との比較

 法科大学院制度が始まる前の旧司法試験が行われていた時代には、司法試験の合格率は3%程度と非常に低く、その倍率から現代の科挙とも呼ばれていました。

 しかし、法科大学院制度が始まってから行われるようになった新たな司法試験では、合格率が一気に上がり、初年度は約48%、2年目は約40%と、旧司法試験時代とは比べられないほど高い合格率になりました。その後、合格率は低下していき、平成28年度には法科大学院制度開始以来、最低の約20%まで低下しましたが、その後は再び上がり、平成30年度の司法試験合格率は約25%となっています。一時期よりは低下したとは言え、この合格率は旧司法試験時代の約10倍の数字であるため、合格者の質の低下を心配する声が出るのも理解できます。

合格率や受験者数と合格者のレベルの関係

 もっとも、合格率が10倍になったとしても、合格者のレベルが大きく下がったと言えるようなデータは現状ではありません。

 たとえば司法修習の事実上の修了試験として行われる二回試験のデータは、司法試験の合格率と二回試験の合格率に関連性がないことを示しています。

 二回試験は絶対評価とされ、一定のレベルに到達していれば必ず合格する試験ですが、同じ年の二回試験の合格率でみても、旧司法試験合格者と新司法試験合格者との間に大きな差はありませんでした。

 これだけで単純に比較することはできませんが、二回試験は法律実務家になるために必要な知識や技法を問う試験であるため、データとしては一定の意味を持つものと思われます。

合格者も減っている

合格者も減っている

 また、受験者数が5,000人を下回り新制度開始以後では最少となりましたが、合格者数も減少しています。新制度開始後の新しい司法試験の合格者は、一時期は2,000人を超えていましたが、受験者数が
5,000 人を下回った平成30年度の合格者数は1,189人であり、ピーク時の半数程度にまで減少しています。このことからしても、受験者数の減少と合格者のレベルの低下を単純に結びつけることはできません。

受験生の答案のレベル

 合格者のレベルを客観的に示すことができるようなデータというのはそもそも存在しないため、何をもって合格者のレベルが低下したと判断するかは難しいところです。

 もっとも、司法試験の受験指導者として数千通もの受験生の論文答案を添削してきた筆者からみて、以前に比べて全体のレベルが低下しているとは感じられません。

論文の答案は受験生の法律知識や理解を計るものとして大きな指標となるものです。だからこそ司法試験では論文試験が行われています。その論文試験の模擬試験の答案などを見る限りでは、受験生のレベルが下がっていると感じられるような事態は今のところ一切起こっていません。個人的な感想でいえば、数年前に比べて裁判例を正しく理解した答案が増えており、その点では以前よりもレベルが上がっていると感じられます。

 毎年、司法試験委員が公表する司法試験の採点実感でも、わずかではありますが、受験生の答案に改善が見られることが指摘されています。

まとめ

 司法試験の受験者数自体は大きく減少していますが、合格者も同じく減少しているため、受験者数が減少した影響は現状では特に指摘されていません。

 しかしながら、司法試験の受験者数や合格率といったデータだけで合格者の質を論じるような報道も多くあります。

 法曹養成は社会に大きくかかわる問題であるため、正しく現状を把握して望ましい法曹養成のあり方を議論していく必要があるでしょう。

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