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カルロス・ゴーン氏逮捕でも話題の特別背任ってなに?

特別背任ってなに?

特別背任罪で追起訴された、日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン氏。ゴーン氏は私的な投資契約を日産自動車に付け替えたり、サウジアラビアの実業家に日産子会社の資金をコンサルフィー名下で送金するなどの容疑がかけられていますが、いずれの起訴事実についても否認して無罪を主張しています。それでは、一体どんなことをすれば特別背任にあたるのでしょうか?

今回は実際にあった事例をもとに、企業内で起こりうる特別背任のケースも含めて、特別背任とは何かを解説していきます。

「特別背任」とはどんな罪なのか?

「特別背任」とはどんな罪なのか?

特別背任は、会社法第960条で

  1. 会社の取締役などが、
  2. 自分や第三者の私的な利益、または会社に損害を与える目的(「図利加害目的」)で、
  3. 自分の任務に背いた行為により(「任務違背行為」)、
  4. 会社に損害を与えた場合(「財産上の損害」)、

懲役10年もしくは1,000万円以下の罰金になる

と規定されています。問題となる2~4の要件について、簡単に解説していきたいと思います。

「図利加害目的」

 背任罪は、任務違背行為と損害の発生について認識、つまり故意が必要であることに加え、自己または第三者の利益を図る目的など、いわゆる図利加害目的まで要求しています。この図利加害目的まで要求されている趣旨は、「主として会社の利益を目的とした場合は処罰の対象としない」という点にあると考えられています。即ち、財産上の損害が発生することを認識しながら、主たる目的として会社の利益のために敢えて任務違背行為を行ったという特殊事情は処罰しないということを明らかにしたものです。

 したがって、自身の利益を図るために、会社に損害が発生することを認識しながら取引を行った場合には、たとえ損害発生の確率はそれほど高いものとは認識していなかったとして、図利加害目的ありと認定されてしまいます。

「任務違背行為」

 背任行為とは、法的・事実上、与えられた権限・裁量権を越えて濫用したか否か、会社との委託信頼関係の内容をもとに具体的に判断する必要があるとされています。

 例えば、典型的な銀行員による不正貸付行為についても、たとえ銀行員が、不十分な担保で貸付けしたとしても、その銀行員の裁量権の範囲内であれば任務違背とはならず、無罪となります。

 この裁量権の濫用の有無は、付与された権限を基礎に、会社の内規や取引マニュアル、その業界の慣行などを考慮して具体的に判断するほかありません。

「財産上の損害」

背任罪は、図利加害目的で任務違背行為を行っただけでは既遂とならず、財産上の損害が発生して初めて完成するとされています。なお、損害発生がない場合には未遂となります。

 この損害とは、経済的観点から見た、会社全体財産の減少とされており、例えば法的に請求権があったとしても担保が不十分であれば、その貸付けは不良債権化させるものとして、全体財産として減少させたとされています。

 また、判例のなかには、実害発生の危険があれば損害ありとするものもあります(最判昭37・2・13刑集16.2.68ほか)が、未遂との区別が曖昧になってしまうため、実害発生の危険では足らず、実際の発生まで必要ではないかとされています。

 なお、図利加害目的+任務違背行為→損害発生で既遂に達しますので、その後に損害の一部が補填されたとしても犯罪の成否には影響しません。

特別背任罪にならない事例と判断基準

特別背任は、株式会社などに財産上の損害を与えることで刑事責任を問われますが、それでは実際にどんなケースで特別背任罪とみなされるのでしょうか。こんな事例があります。

グループ企業の子会社Aで代表取締役をつとめる被告人が、その取締役会決議等の正当な手続きを経ずに経営不振の別の子会社Bに利益を渡した結果、自社に損害を与えた、という事例があります。

形式的には、第三者である子会社Bの利益を図るため(図利目的)、子会社Aで規定された手続きを経ず、かつ子会社Aに損害を与えるという取締役の義務に反して(任務違背行為)、子会社Aに損害を与えたのであるから、特別背任罪で有罪となりそうです。

しかしながら、この事例では、裁判所は無罪を言い渡しました。

それは、B社は経営状況が逼迫していて、赤字を回避できなければ銀行融資が受けられず、倒産する危険があり、そうなれば親会社が同じである子会社A社にも多大な損害が発生する危険性があったことから、被告人の行った利益供与は経営判断として合理的であった、即ち任務違背や図利目的がなかったと判断されたのです。

特別背任罪の立証は難しい

カルロス・ゴーン氏の特別背任罪の立証は難しい?

このように特別背任罪の成立は実務家でも判断することは難しいとされています。今回、カルロス・ゴーン氏の、含み損を抱えた投資契約の付替えは日産側に明らかに経済的損失を与える行為であり、有罪とされる可能性が高いというのが実務家の意見ではないでしょうか。カルロス・ゴーン氏が経済的損失を補填する合意書を交わしていたとしても、ゴーン氏のそのときの経済的状況によっては日産側が損失を被る可能性があったわけです(そもそも新生銀行はゴーン氏の経済的余力が不十分と判断して追加担保を要求したわけですし)。また、証券取引委員会の指摘を受けて契約を戻したとしても、前述のように損害発生ありとされた後ですので、犯罪の成否には影響を受けません。

次にゴーン氏は、日産子会社の機密費から知人にコンサル報酬として16億円を支払ったとされていますが、もちろん架空のものであれば日産子会社に損害が発生しているわけですから、特別背任罪が成立します。これについて、ゴーン氏は、投資契約やその保証を巡ってのコンサル報酬であると説明していますが、投資契約はそもそもゴーン氏の私的な問題であり、日産側への付替えも違法なものであったのですから、日産子会社がそのコンサル報酬を支払う合理的理由はないように思います。

ある弁護士は、むしろ、ゴーン氏の投資契約での損失(追加担保)を埋め合わせるために、知人を通じて架空のコンサル報酬を迂回させたのではないかと指摘していました。

日産のV字回復の立役者であるゴーン氏の貢献は目を見張るものがありますが、刑事裁判では劣勢を強いられるのではないかと考えています。

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